このブログを読んでくださっている方々であれば「ドリルと穴」の話はご存知であるかと思います。
セオドア・レビット博士が著書の冒頭で書いた「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなくて穴である」という格言です。
これを、今回村上春樹の新作買い占め作戦に出た紀伊國屋にあてはめて考えたいと思います。
読者は何を求めているのか
当然読者が求めているのは「村上春樹の新作を読みたい!」です。読んで感動したい人、教養にしたい人など読む理由はそれぞれでしょう。
で、大切なのは「街の本屋さんで買って読みたい!」とは思ってないんですよ。もっと言えば「Amazonで買いたくない」とも思ってない。
紀伊國屋の今回の戦略は、顧客の欲求を満たすためのものではないことが分かります。
紀伊國屋はドリルにこだわっている
紀伊國屋には昔からのコネと資金と、あと最近は「対Amazon街の本屋さん連盟(いま私が名付けた)」のトップみたいになってますよね。紀伊國屋社長がAmazon嫌いなのも有名です。
ドリルメーカーの最悪な例は、こんな感じです。顧客がドリルを買いに来たときに「うちにはこんなにドリルがあります。デザインも沢山あるし、刃の材質も様々!なんなら特注であなた向けのドリルだって作れちゃいますよ!」
と。これは自社のドリルに対する熱意や自信、自負が強ければ強いほどやばいです。上のような提案は一部のドリルマニアには受け入れられるでしょうが、99%の顧客には敬遠されます。
これと同じ事をやっているのが紀伊國屋です。自社が持っているリソースをどう使えば良いかを考えているだけで、顧客のことを見ていない。ミニ四駆に穴を開けたいだけなのに、ごっついドリルを見せられても響かない。自社に何ができるかじゃなくて、顧客の方を見ないといけない。
ネットで本を買いたい人は少なくありません。そういう人たちにとって、この施策は悪でしかない。もちろん紀伊國屋もネット通販をやってますが、アカウント取得はめんどくさいし、Amazonポイント使えないし、別にアカウント取りたくないし。最近はプレゼントをAmazonギフト券で送ることも多いですが、それも使えない。Amazonギフト券は一昔前の図書カードです。「これで好きな本を買ってね☆」とあげているのに、「村上春樹の新作、売り切れててAmazonで買えなかったよー」となる。害です。
自社の通販で買わせたいなら、「顧客はネット通販に何を求めているのだろうか」を徹底的に考えて、その理想を実現したら良いでしょう。別に今のAmazonが完璧な理想ではないと思いますから、太刀打ちできるはずです。
Amazonを越えるネット通販ができれば、自然と顧客は紀伊國屋の通販を使います。否応なしに嫌々自社のサービスを使わせるとか、どんなファシズムですか。(イケハヤっぽくなってしまった)
TSUTAYAやビレバンに学べ
TSUTAYAはカフェとコラボレーションすることで、街の本屋としての存在意義を見いだしています。東京だと代官山のTSUTAYAは非常に賑わっていました。そういえばうちの妻も、大阪ルクアのスタバTSUTAYAで3時間くらいゆっくりしたと言っていました。とてもニーズのあるサービスだと思うし、ネット通販には提供できない街の本屋さんならではのサービスです。
ビレッジヴァンガードだけではありませんがPOPがとてもポップ(!?)で、POPを見ているだけで楽しい本屋さんもあります。私は本を買うときに、本屋のPOPを参考にすることも多いです。それが、知らない本との出会いになることもしばしば。Amazonにもレビュー機能があるのですが、暖かみとか親しみやすさが段違いなんです。
ということで、街の本屋さんだからこそできる何かがあるはずです。ベタですが、来店ポイントなんかめちゃめちゃ効果でると思いますよ。来店したら新刊に目がいくし、「おっこんなのあったんだ!」と新しい発見も毎回あります。これは広告宣伝として効果が高いはずなので、なぜやらないのか不思議。むしろhontoカードではネットに来店ポイントがあるとかいう謎っぷり。
ネットでまじで戦うなら本のサマリーサービスなんて熱いと思います。flierなどいくつかサービスがありますが、やっぱり有料で結構高い。そこで、紀伊國屋でもサマリーを作るかflierからサマリーを買って、紀伊國屋の顧客に安く読ませる、そしてすぐにポチれる。または紀伊國屋書店での購買額に応じて何冊までか無料でサマリーを読めるとか、紀伊國屋におけるロイヤリティに応じてサマリーのサービスレベルが上がるようにすれば良い。私は年間100冊くらい読んでいるが、200冊は読みたい。でも時間を作れなくて困ってる人は、サマリーを活用しつつ多読します。ビジネスパーソンには結構ウケるサービスだと思うけどなあ。
とまあ長くなりましたが、是非とも日本を代表する本屋さん、紀伊國屋さん。ドリルメーカーではなくて穴に目を向けてほしい。読者は何を求めているのか。
本屋にいく人は本を買いたい訳じゃない。○○を求めているのだ!
○○が見つかれば勝機は絶対にあると思いますよ!応援してます!