「ジョブ型」の是非を議論をする前に最低限抑えておきたい事項

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最近、世間では「ジョブ型」がかなり流行り言葉になってきています。流行りに便乗してジョブ型を拡大解釈して「とりあえずジョブ型って言っとけ」的な風潮も出てきていて、ますますジョブ型が何なのかわからなくなってきそうです。ともすると、日本型ジョブ型みたいな概念がでてきそうです。別にそれ自体悪いことではないのですが、そもそも日本型の雇用慣習自体も様々な歴史を経て習熟してきたものであり、それらを踏まえて今の雇用慣習のメリデメ、今後求められる雇用慣習を考えなければならないと思うわけです。そうしないと行きあたりばったりで歪んだものが出来上がってしまうことでしょうか。

ということで、一介の人事パーソンである私ではありますが、改めて人事系の制度や慣習などについて整理していこうと思います。

「労働時間でなく成果で評価する」はジョブ型とは関係ない

最近良く聞かれる議論がこの、労働時間でなく成果で評価されるべきというもの。そもそも会社ごとに評価の制度や考え方があります。学校に例えると先生によって期末テスト100%の人もいれば、授業中の態度を重視する人もいる。遅刻回数を考慮する人もいればあまり考慮しない人もいる。

これと同じように人事考課の中でも、数字で評価する、数字だけでなくプロセスを重視する、勤務態度も重視するなどいろんな考え方があるわけで、その中で文化として「長時間頑張ってるやつは、高く評価したくなる」みたいなものが出てくるのです。「あいつの苦労に報いてやろう」みたいな。

これを良しとする文化を否定するも肯定するも自由ですが、大事なことは「成果だけで評価をする」だったとしても、それはジョブ型とは言いません。あくまでその会社や組織で何を重視されるかというだけの話。成果主義=ジョブ型ではありません。

「労働時間でなく成果で給与を払う」もジョブ型と関係ない

似たような話で、労働時間ではなく成果で給与を払おうという議論も活発です。これについては私は賛成です。私は長らく自分自身、専門業務型裁量労働性を適用されているか管理監督者として時間外手当の対象外でありますから、残業をしても残業代は支払われないという働き方をしてきました。残業代を気にすることなく仕事を早く終えようというインセンティブになりますし、サクっと仕事を終えても給料が減るなんていうことはなく、自分にはとても合っていて好きな働き方です。

これらについては、どうやって給与を払いますか?という話です。日本の場合ほとんどが時給制です。日本以外の多くの国ではホワイトカラーは月給制(残業代という概念無し)、ブルーカラーは時給制(働いた時間に応じて支給)です。日本も戦前はホワイトカラーは月給制で残業なしでしたが、戦時下においてブルーカラーにも月給制 (残業代有り) が適用され、それに伴いホワイトカラーの月給制にも「残業したら残業した分を追加支給」されるようになりました。現在の日本の正社員の多くがこの働き方を受け継いでいます。

ただ、これも別にジョブ型やメンバーシップ型の話ではありません。先述したように裁量労働制で働いていても、私の雇用のされ方はどう考えてもジョブ型ではなくメンバーシップ型です。

メンバーシップ型とジョブ型

メンバーシップ型とジョブ型についても、別に明確な定義が有るわけではないものです。これらは法律などに明記されたものではなく、労働政策研究・研修機構所長 濱口桂一郎氏が提唱した概念でした。ここでは簡単にジョブ型とメンバーシップ型を整理しておきます。

ジョブ型

職務内容(ジョブ)を明確にし、その職務を行う雇用契約を結ぶのがジョブ型です。雇用契約で明確に定められた範囲の労働について義務を負い、使用者は権利を持ちます。それゆえそのジョブがなくなれば解雇となります。日本では配置転換を行うのが基本ですが、ジョブ型の場合新たに雇用契約を結び直すということなります。しかしながらAの職務がなくなってBの職務が人手不足という場合、Aの職務についていた人を配置転換するよりも、Bの職務に習熟している人を外部から雇う方が効率的だとすれば、やはり解雇となるでしょう。ゴールドマン・サックスで600人いたトレーダーが2人のAIエンジニアに置き換えられたという記事が話題になりましたが、これはメンバーシップ型雇用だと難しい置き換えです。

なおジョブ型の場合、報酬はジョブに紐付きます。たとえば私が在籍する人事部の仕事でいえば、

  • 新卒採用:月給25万円
  • 中途採用:月給28万円
  • 給与計算:月給25万円
  • 制度設計:月給33万円

のように、担当する職務によって給与が決まります。(職務等級制度) 熟練度によって多少や増減しますが、基本は「何の仕事をするか」で給与が決まるのがジョブ型です。だから例えば制度設計を5年やった人が熟練度によって昇給して35万円だったとしても、配置転換によって中途採用担当になれば給与は28万円に下がります。それがジョブ型です。

そう聞いて「それはさすがに可哀想では?」とか「制度設計5年やって熟練度ボーナス2万円ついていた分は上乗せしてあげないと」と思う人が多いですよね。でもそういう風に考えるのはメンバーシップ型(職能資格)の考えです。

メンバーシップ型

メンバーシップ型は、ジョブ型のように雇用契約時に担当職務を明記しません。配置転換などの度に更新されるのが普通です。営業をやっていた人が購買部に異動になれば、職務内容が営業から購買になるわけです。

よく日本の雇用は就職ではなく「就社」と揶揄されますが、正にその通りです。どのような仕事につくかという雇用契約ではなく、どの企業の正社員として雇われるかという雇用契約な訳ですから。

先述のジョブ型と比較するとメンバーシップ型雇用にも善し悪しがあることが見えてくると思います。ジョブ型ではないので、給与の額もジョブによって決まるものでは有りません。人事制度設計のベテランで35万円もらっていた人が中途採用に配置転換された場合も、報酬が下がることは基本的にはありません。なぜならメンバーシップ型雇用は職務に応じて給与が決まる職務等級制度ではなく、その人の能力に応じて給与額が決まる職能資格制度だからです。

職能資格制度

職務遂行能力(職能)に応じて等級を決定する仕組み。職務遂行能力というのが厄介な考え方ですが、簡単にいうと社員一人ひとりの能力に応じて給料を払いましょうというもの。能力ってどうやって定義すんねんっていうのが難しいところで、結局は年功の概念が入る。新卒1年目と10年選手だったら、10年選手の方が仕事できるよねということ。もちろん年次だけでなく、細かく分けられた職能資格(グレード1とか、企業によって色々)の昇格スピードは人によって違うため、同じ10年目でも人によって何グレードにいるかは差がつくので、給与にも差がつきます。

能力は一度上がったら下がらないという前提がある(この前提について異論は認めるが)ので、人事制度設計を5年やっていた人が中途採用の仕事に移ったとしても、その人の持つ職務遂行能力は下がらないので給与は下がらない、ということになる。(異論は認めるが、そういう考え方)

能力に対して給与を払うというのは、アメリカではやりたくても絶対やれないものです。そもそも能力なんてどうやって定義すんねんという話で、差別につながる可能性があるからです。「俺よりあいつの方が給与が高いのは、俺がアジア人だからだろ!」とか、そういう風になるわけですね。「うるせー!お前の仕事はトイレ掃除だろ!トイレ掃除は月給20万円とJDに書いてあるんだから文句言うな!」というのがジョブ型。

日本人が忘れがちなメンバーシップ型のメリット

我々は日本型雇用のメンバーシップ型雇用で長らく働いてきました。点で見れば、その労働環境や雇用慣習として不満に思うものもあるでしょう。例えば年功序列は若者の労働意欲を削ぐとか、働かない年長者の存在とか、新卒一括採用の弊害とか。でもシステムというのは相互に作用するため、デメリットを潰すことでこれまで享受していたメリットが消えるということもあります。以下に、日本型雇用の忘れられがちなメリットを記載します。(デメリットについては様々な所で語られているため、ここでは割愛します)

ジョブ型に生活給の概念はない

ジョブ型と対象的なメンバーシップ型の象徴とも言える年功序列のメリットは、年齢が上がってくると結婚したり子供が生まれたり、子供が成長して教育費がかさむようになるという、人生において必要な費用の波をうまく吸収していることです。

ジョブ型雇用の場合、その人に子供がいようが独身だろうが、報酬は決まっています。それゆえジョブ型雇用が一般的な国(まあ日本以外ほとんど)では、子育てや住宅などに関する社会保障が充実しています。逆にそういった社会保障の充実なしにジョブ型が加速すると、20代は良くても30代以降でお金がかかるようになった人が、必要なお金を得られない可能性が出てきます。年功序列は多くの人にとって、生活の安定というメリットをもたらしていたのです。

キャリアチェンジが容易にできる

営業をやっていた人が人事の仕事につくなど、職種変更を伴うキャリアチェンジについては、日本の方が寛容です。前述のとおりメンバーシップ型雇用の場合はジョブローテーションの際にも給与は下がりませんし、これは社内ジョブチェンジだけでなく転職の際にも有る程度考慮されているように思います。(特に若年層) ジョブ型だとそもそもそのジョブの実務能力がないと転職できませんから、ジョブチェンジはしづらいわけです。

新卒一括採用により、若年層失業率が低く抑えられる

実務経験やスキルではなくポテンシャルを元に行う新卒一括採用は、若年層の失業率を低くする傾向にあります。ILOの若年層失業率のデータでも、日本の若年層失業率は諸外国に比べてかなり低く抑えられています。ジョブ型だと明らかに経験者が有利ですし、経験の差を埋めるために欧米ではインターンシップが行われますが、逆に言うと在学中にインターンシップをしないと職に就きづらくなるわけです。それは多くの人が求めているものとは違うように思います。

最後に

別に私はジョブ型にするなと言っているわけではありません。ジョブ型にはジョブ型のメリットもありますし、メンバーシップ型の明らかなデメリットもあります。ただしジョブ型もメンバーシップ型も、その成り立ちや変遷には多くの時代背景や苦労、工夫が詰まったものであり、安易に「今流行のジョブ型で全て解決」にはならないという考えです。

正しい前提知識に基づいて、前向きな議論がなされることを願います。

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